要件定義を成立させる実務設計

(2026.01.06)

要件定義を成立させる実務設計

これまでの回では、要件定義で何を決めるのか、どのように整理していくのかを見てきました。

本ページでは、それらを実務の中でどう成立させるかに焦点を当てます。合意の設計を起点に、関係者ごとの視点の違い、自社で進める場合と業者に任せる場合の考え方、見積・契約・納品との関係を整理しながら、要件定義を判断の拠り所として機能させるためのポイントをまとめています。

要件定義を成立させる実務設計:目次

合意の設計

要件定義における「合意の設計」とは、「目的」「前提」「期待値」を言語化し、関係者間で共有できる状態をつくることです。プロジェクトは、この要件定義で合意した内容を根拠として進行されます。

そのため、機能や仕様を決める前に、「何をするか」「何を成功とするか」「今回どこまで扱うか」といった前提条件を共有しておくことが重要です。これにより、後工程で生じやすい認識のズレや手戻りを防ぐことができます。

なぜ要件定義で合意が必要なのか

要件定義で合意が必要な理由は、プロジェクトの進行や判断が、個人の解釈ではなく「共通の前提」に基づいて行われる必要があるからです。合意がないまま進むと、同じ言葉や仕様に基づいていても、立場ごとに異なる理解のまま進行してしまうリスクがあります。その結果、プロジェクトの途中で判断がブレたり、完成段階で「思っていたものと違う」というズレが表面化します。要件定義での合意は、こうしたズレを未然に防ぎ、スムーズな判断を下すための土台となるのです。

誰と合意するのか(関係者とは誰か)

要件定義で合意の対象となる「関係者」とは、プロジェクトの成果や判断に影響を与える立場の人たちを指します。発注者だけでなく、社内の関係部署、意思決定者、運用に関わる担当者、制作・開発側などが含まれます。重要なのは、プロジェクトに直接関わる人だけでなく、「影響を受ける人」も合意の範囲に含めることです。

例えば、プロジェクト自体には直接関与していなくても、法的・コンプライアンス上の観点から法務部が関わるケースもあります。誰を、どこまで関係者として捉えるかによって、要件定義の精度は大きく変わります。

合意を得るために根回しをしている写真
関係者を行き来しながら、合意を積み重ねていく。

何について合意するのか

要件定義で本当に合意を確認したいことは、「目的」「前提」「期待値」などの判断の基準です。具体的には、「このプロジェクトで何を実現したいのか」「何をもって成功とするのか」「今回どこまでを対象範囲とするのか」といったことです。これらの合意事項は、機能や仕様について意見が分かれた場合でも判断の軸となります。要件定義における合意とは、細部を決め切ることではなく、判断の軸を作ることでもあります。

合意なき進行のリスク

合意なき進行のリスクは、プロジェクトが「動いてはいるが、判断の軸が定まっていない」状態で進んでしまうことにあります。関係者それぞれが異なる前提や成功イメージを持ったまま進行するため、各所で方針を決める際に意見が割れやすくなります。

その結果、「想定外」「そこまでやるとは聞いていない」といったズレが後工程で顕在化し、修正や手戻りが発生します。これは特定の誰かの判断ミスではなく、合意を設計しないまま進めたことによる構造的なリスクと言えます。

職種による違い(メリット・デメリット)

要件定義は、特定の職種の人が単独で担う業務ではありません。立場や専門性によって、見ているものや判断の基準は異なり、それぞれに強みとリスクがあります。重要なのは、どの職種が正しいかを決めることではなく、それぞれの視点を理解したうえで、一つの判断軸としてまとめていくことです。

実務の現場では、下記の表に示したような視点の違いを前提に、関係者へのヒアリングを重ねながら合意を設計していきます。要件定義は、専門性を持ち寄り、共通の判断の軸を可視化するための工程だと言えます。

職種 主に見ているもの 要件定義に活きる強み 起きやすいリスク
ディレクター/PM/SE 全体構造/専門性の衝突点 専門性をつなげられる/方針を言語化できる 決断しない調整屋になる
営業 顧客の期待値/予算感・スケジュール/合意形成の温度感 期待値調整ができる/決断のタイミングを読める 後から調整役に回りがち
エンジニア 実現性・リスク/工数・難易度/将来の拡張性 無理な要件を止められる/見積もりの現実性が上がる 技術起点でスコープが閉じる
デザイナー ユーザー体験/情報の伝わり方/画面構成・導線 要望を体験に翻訳できる/抽象的な目的を具体像にできる 美しさが目的化する
事業/発注側 目的・成果/優先順位/事業判断 「やる意味」を定義できる 抽象論に寄る

どの職種にも要件定義に活きる強みがあり、同時に偏りやすい視点もあります。重要なのは、プロジェクトの「目的」にフォーカスし続けながら、専門性の違いを活かして合意を設計することです。その積み重ねが、判断に迷う場面を減らし、結果としてプロジェクト成功につながります。

自社でやるか、業者に任せるか

要件定義は、発注者が自社で行うことも、外部の業者に任せることもできます。重要なのは、プロジェクトの状況や体制に対して、どちらが現実的かを見極めることです。実務では、両者が協力して進めるケースも少なくありません。その役割を誰が担うのかによって、要件定義の進め方や注意点は大きく変わります。

自社で行う場合

自社で要件定義を進める場合、社内では通じている言葉や背景が、そのまま要件として書かれてしまうことがあります。そうした表現は、業者(制作パートナー)には意図が正しく伝わらず、解釈が分かれる原因になります。その結果、「言ったつもり」「分かっていると思っていた」といったズレが生まれやすくなります。

「誰に読まれても同じ理解にたどり着けるか」「第三者の視点で言語化できているか」、その確認を繰り返すことが、スムーズなプロジェクト進行につながります。

注意したいポイント
  • 社内で通じている言葉や略語を、そのまま使ってしまう
  • 背景や経緯を共有したつもりになり、明文化しない
  • 関係者ごとに認識がズレたまま進めてしまう
  • 「決まっていないこと」が要件に紛れ込む
  • 複数人で書き進め、背景や言葉の使い方がブレる

業者に任せる場合

業者に要件定義を任せる場合、第三者の視点で状況を見定め、言葉や背景を客観的に判断してもらえます。社内では当たり前になっている前提や思い込みに対して問いを立て、目的や判断の軸を明確にしていく役割を期待できます。

一方で注意したいのは、「任せているから大丈夫」という意識が先行し、発注者側の関与が弱くなってしまうことです。要件定義は、業者が一方的に作り上げるものではなく、発注者の意思や判断を引き出しながら形にしていく工程です。

業者に任せる場合は、要件定義の主体が誰なのかを明確にし、意思決定や最終判断は発注者が担うという線引きをすることが重要です。業者は「要件定義作成の支援をする存在」と考えると、プロジェクトでのズレが起きにくくなります。

注意したいポイント
  • 業者に丸投げしてよいと思ってしまう
  • 判断や優先順位の決定まで業者に委ねてしまう
  • 目的や背景を十分に共有しないまま進めてしまう
  • 業者がまとめた内容を曖昧に確認してしまう
判断を誤りやすいポイント

要件定義で問題が起きやすい点は、「誰が決めるのか」「何を決めるのか」が曖昧なまま進んでしまうことです。自社内では暗黙のうちに伝わる「言葉」「背景」「前提」が、業者には伝わらず「任せていたのに」と、プロジェクトに影響が生じてしまうことが少なくありません。そのため、要件定義では次の点が明確になっているかを、都度確認する必要があります。

確認のポイント
  • 最終的に決定するのは誰か
  • 決めたい内容は何か
  • すでに合意されている内容は何か
  • 決めなくてよいことは何か

要件定義の進捗目安

要件定義は見積もりや契約、納品といったプロジェクトの節目と結びつきながら進むので、どの段階で、何が決まっている状態かを意識することが大切です。

進捗状況を段に例えている写真

見積もり段階

プロジェクトの目的や背景が共有され、おおよその対象範囲が見えている状態が求められます。機能面も含めて「何を実現するのか」「どこまでを扱うのか」などプロジェクトの大枠を見える形にして、見積金額の根拠として成立している状態にしておきます。

契約段階

「やること」と「やらないこと」が明確に切り分けられ、責任の所在が明確になっている必要があります。業務範囲、責任範囲や条件について、後から解釈が分かれないよう記されていることが重要です。

納品段階

「何が決まったのか」「何をもって完了とするのか」が確認できる状態になっています。決めなかったことや、今後の検討事項も含めて残っていることが、次の工程への引き継ぎになります。

要件定義書の位置づけ

要件定義書は、見積もりでは金額の根拠となり、契約では業務範囲の根拠となり、納品時においては合意内容の根拠となる文書です。プロジェクトの各段階で、判断や説明の軸として機能することが求められます。

要件定義を成立させる実務設計のまとめ

要件定義で最も重要なのは、機能や仕様を並べることではなく、プロジェクトに関わる人たちの認識を一致させることです。そのために必要なのが「合意の設計」です。「目的」や「期待値」、「どこまでを今回扱うのか」を言葉にし、関係者間で共有できる状態をつくることで、後工程でのズレや手戻りを防ぐことができます。自社で進める場合も業者に任せる場合も、「誰が決めるのか」、「何を決めるのか」を曖昧にしてはいけません。

また、見積もり・契約・納品といった各段階において判断や説明の拠り所となる文書です。合意した内容を根拠として残すことで、プロジェクトを前に進めるための土台として機能します。

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